お風呂場を通り越してお家の奥に進んでくと、そこには何にもないお部屋が何個かあったんだ。
「バーリアンさん。ここは何するお部屋なの?」
「ああ、ここは本来、図書室や執務室、それに書斎として使うつもりだったようね」
広いのに何にも入ってなのは、使う時に机とか椅子、それに本棚とかを入れるつもりだったからなんだって。
でもこのお家、お隣に作るつもりの商会の建物を作る前にバーリマンさんに売っちゃったでしょ?
だからここには何にもないんだってさ。
「しかし、何もないというのはかえって好都合じゃな」
「なんで?」
「それはじゃな、余計なものが入っておると、必要なものがある時に運び出さねばならなくなるからじゃよ」
さっきバーリマンさんが教えてくれた通り、ほんとだったらここには本棚とかおっきな事務机とかが並んでるはずだったでしょ?
でもこのお家には、ロルフさんちの人たちが来ることになってるんだもん。
その人たちはメイドさんとか執事さんのお仕事のお勉強に来るんだから、そんなのいらないんだよね。
だからもしそんなのがあったら先にお外に出さないとダメだから、何にもなくって良かったんだってさ。
「幸いここは調理場も近いですし、メイド見習いたちに給仕や接客の練習をさせる場にするにはもってこいですわね」
「うむ。それにこの区画には正門とは別の入口もあるからのぉ。何かの用事で外出する時に便利じゃから、これなの部屋の一つを執事見習いたちの勉強の場に使うのにも都合がよい」
この何にもないお部屋が並んでるとこは、永ぼそいこのお家の真ん中あたりなんだよね。
そこにはほんとだったら作るはずだった隣りの商会の建物とつなぐはずだった入り口もあるからって、僕たちが入ってきた入口がある方の何個かあるお部屋はメイドさんたちが、そして奥にある何個かのお部屋は執事さんたちがお勉強に使う事になったんだ。
「ローランドよ。そういう事じゃから、後で必要となるものの手配を頼むぞ」
「畏まりました。旦那様」
ロルフさんにそう言われたローランドさんは、近くのお部屋を見て周っては羊皮紙になんか書き込んでったんだよ。
でね、一通り全部のお部屋を見て周ると、僕たちんとこに戻ってきたんだ。
「旦那様、お待たせしました。とりあえず必要となりそうなものは、一通り書き留めました」
「うむ。それでは、先に進むとしようかのぉ」
と言う訳で、僕たちはまだ、みんなしてぞろぞろとお家の奥の方へ進んでったんだよね。
「あれ? ここ、なんか変」
そしたらお家の端っこの方で、僕は変なお部屋を発見したんだ。
「ロルフさん。これって何のお部屋?」
「どれどれ? ふむ。これはまた、奇怪な作りの部屋じゃのう」
そのお部屋はね、僕たちがのぞき込んでる側、zん体の3分の1くらいが板の間になってて、その向こう側は石畳になってるって言う、変なとこだったんだ。
でね、そのお部屋の奥にはお外へ出てくためのドアがついてるんだけど、その他には何にも置いてないんでよね。
「ここも、なんか入れる前だったのかなぁ?」
「そうかもしれぬが、それにしても何に使うための部屋なのかが想像できぬ」
僕んちだとお部屋は板張りで、お料理するとこだけは土のまんまなんだよね。
だから最初はちっちゃな厨房なのかなって思ったんだけど、家具と違ってかまどは煙を逃がす煙突がいるから最初っから作っとかないとダメでしょ?
そりゃあ魔道コンロを使うんだったら後からでも置けるけど、おっきな厨房が薪のかまどなんだからこんなとこにそんなのと置く訳ないよね。
そんな訳で僕たちはお部屋の中を煮ながら、二人して頭をこてんって倒してたんだけど、
「誰か、この部屋がどのような用途に使われる部屋か、変わる者はおるか?」
ロルフさんはどうやっても思いつかなかったみたいで、周りにいるみんなに聞く事にしたみたい。
でもね、バリーリマンさんとお爺さん司祭様、それにローランドさんも代わり番こに中を覗き込んだんだけど、だぁれもここが何のお部屋なのか解んなかったんだ。
「ふむ。ではそこの娘らはどうじゃ?」
「私たちですか?」
だからね、ロルフさんはキルヴィさんたちにも聞いてみたんだよね。
「貴族様のお屋敷の中にある部屋の使い方なんて、私たちが解るはずないと思うんですけど……」
お姉さんたちはそう言いながら、僕たちと入れ替わってお部屋の中を覗き込んだんだ。
「あれ?」
「この部屋って、あれよね?」
「でも、ここは貴族様のお屋敷よ。そんなはずないじゃない」
そしたらお姉さんたちは、変な顔しながらひそひそ話を始めちゃったんだよね。
だから僕、知ってるの? って聞いてみたんだよ。
でもお姉さんたちは、間違ってるかもしれないからって教えてくれないんだ。
「え〜、間違っててもいいじゃないか!」
「うむ。ルディーン君の言う通りじゃ。そもそも用途が解らぬから聞いておるのじゃから、たとえ間違っておったとしても誰にも解らぬであろう?」
「そうだよ! だからね、なんか知ってるなら教えて」
「そこまで言うのなら……」
キルヴィさんはね、そう言うとお外につながってるドアまでとことこって歩いてったんだ。
でね、一度周りをきょろきょろと見てからそのドアを開けると、
「部屋の中だけじゃなく外にもこれがあるって事は、やっぱりそうなのかなぁ」
そう言って頷いてから、僕たちんとこに戻ってきてここが何のお部屋か教えてくれたんだよね。
「この部屋とそっくりな場所が、私たちがいつも泊まっている宿にあるんです」
「ほう。して、その部屋はどのような用途の部屋なのじゃ?」
「流石に貴族様の館でも同じように使われているとは思えないのですが、私たちお金が無い冒険者は、今のように暖かい季節は井戸の水で、寒くなってきたらお湯をもらって汗を流すのに使っています」
「ええっ! じゃあここ、お風呂なの?」
これには僕もロルフさんもびっくり。
特にロルフさんは、いくらなんでもそんなはずないよって言ったんだよ。
でもキルヴィさんは、やっぱりそうとしか思えないんだって。
「でもあそこの扉、あれを開けるとすぐそこに井戸があったんですよ。それにこの石畳も隙間が空いてるところが外に向かって傾いていて、壁沿いには外に水を出すための溝まで掘ってあるし」
「なんと!」
そう言われて慌てて見に行くと、ほんとに我部のしたんとこに溝が掘ってあって、その端っこの所には小さな窓があってお水が外に出るようになってたんだ。
それにね、ドアを開けてみるとそこには井戸まであったんだもん。
子なるとお姉さんたちが言ってることが正しいって、僕も思えてきたんだ。
「旦那さま。お嬢さん方の推測は、どうやら合っているようでございます」
それにね、そんな僕たちにロルフさんちの執事さんもお姉さんたちはホントの事を言ってるよって言うんだ。
「それはどういう事じゃ、ローランド」
「はい。この近くには、他の部屋よりも明らかに小さな部屋がいくつかございました。そこから考えますと、この館の使用人はここで汗を流し、その小さな部屋で寝泊まりしていたのではないかと」
このお部屋があるとこは、このお家で働く人たちが住むはずの場所だったんじゃないかなってローランドさんは言うんだ。
だからこのお部屋も多分、そんな人たちが体を洗うとこなんだってさ。
「じゃが、あれほど大きな風呂があるではないか。ならばその残り湯で汗を流せばよかろう?」
ロルフさんちはね、いっつも住んでるお家だけじゃなくって東門の外にあるお家の方でも、毎日お風呂を沸かしてそのお湯でみんな体を洗ってるんだって。
だから貴族のお家なのに、そこで働いてる人がこんなとこで体を洗ってるなんて思わなかたみたい。
「確かに日常的にあの風呂を使っていればそうでしょう。しかし先ほど司教様が仰られた通り、よほどのことが無い限りは使われてはいなかったのではないかと思われますので」
「そう言われていると、確かにそうじゃのぉ」
でもね、ここのお風呂はいっつも使ってるわけじゃないでしょ? って言われたら、そうかもしれないなぁって納得。
「下級とはいえ、貴族です。館で働く者たちは常に清潔にしておらねばどんな噂が立つか解りませんから、このような設備を作ったのではないでしょうか」
「うむ。ここは本宅ではないと言うし、普段管理を任されているものたちのための場所と考えれば、このような部屋を作るのも仕方がないか」
ロルフさんはそう言って、長いお髭をなで長る深く頷いたんだ。
でもね、
「家人のための場所と一応は納得しては見たが、下級貴族の中には風呂を沸かす薪代にも困っておる者がいるとも聞く。まさか、準男爵までここを使っておるなどという事は……いやいや、それは流石に……」
そレからちょっとの間、ロルフさんは難しいお顔をしながら僕たちに聞こえないくらい小さな声で、なんかぶつぶつ言ってたんだ。
本当だったら、前回の話のオチはこれだったんですよ。
でも流石に長くなりすぎそうだったので二つに分ける事にしました。
因みにですが、ロルフさんの言う通り、貴族の中には社交シーズン以外は他の貴族に会わないからと言って毎日お風呂に入らない人もいるんですよ。
でもこの館の元の持ち主である準男爵は、本宅にお湯を沸かす魔道具を持っているのでちゃんと毎日お風呂に入っています。
そりゃそうですよね、だって失敗したとはいえ商会を立ち上げようとしたほどの人なのですからねw